ダイアモンド X500 144/430MHz GPアンテナの再生 第1回

144/430MHz用GPアンテナの再生について、メンバーから寄せられた記事をご紹介します。

ダイアモンド X500 144/430MHz GPアンテナの再生 第1回
2021.1.16
JH1ESR 三根

 
 第一電波工業社のX520は144/430MHz用GPですが、このX500はその元になったタイプで25年ほど以前には発売されていたようです。 かなり古く、長期に使用されていたようで、頂いた時には汚く塗装されいかにも廃棄処分されそうな状態でした。 取扱い説明書がないので仕様はわかりませんが、全長4m70cmにもなる大型のGPですから、それなりの性能があるものと推測でき、使用してみたくなりました。 恐らく現行のX520に近い性能はあるのではないでしょうか。 故障品とは聞いていないので、恐らく使用可能だろうと目視点検して使用することにしました。

1.分解点検

 グラスファイバーパイプは3本繋ぎになっているので各段を分解してみました。 パイプの繋ぎ部分は専用の工具で取り外しをするようになっているようですが、厚みの薄いモンキーレンチを使用して外すと中のエレメントが出てきます。 エレメントもグラスファイバーパイプにほぼ対応する長さで連結金具で接続されているので、プラスドライバーで螺子を緩め、エレメントもはずしてゆきます。 エレメントはコイルが各段毎にあります。 最下段のエレメントはファイバーパイプを外せないので見ることができません。
 エレメントは2ミリ程度の線で作られてしっかりしていますが、長年の経過で外側は黒く焼けたように見え、エレメントの途中にスポンジ状の緩衝材が付けられてパイプ内部とエレメントの接触を避けているようです。 風でエレメントが振られた時に起きる、エレメントとパイプの衝突防止用かと思えます。しかし、それも経年で劣化しています。
 グラスファイバーパイプにはひび割れはなく汚い塗装でもファイバー繊維の劣化防止にはなっていたようです。接続部の螺子山には異常なく殆ど取りはずしは行われていないようでした。
 ラジアル取付け用のリング部品もそれほど劣化はありませんので、概ね問題なしと思えますが、下段部とアルミパイプ製のマッチング部は分解できず見ることができません、酷い汚れでアルミパイプ部の底のNJコネクタがどのように底蓋についているかも判りません。 蓋がどのようパイプについているかも判りませんでした。 これでNコネクタのセンターピンと外皮側の導通のみチェックしましたが、導通はありません。 アレスタータイプの構造ならば導通があるはずですが、導通がないのはそのタイプでないのか断線なのかどちらかですけれど、正常と考えることにして以後の作業を始めることにしました。


2.清掃

 余りに汚い外観の清掃をすることでグラスファイバーパイプの損傷点検と金属部の腐蝕の点検補修をすることにして、塗料用の薄めのシンナーをウェスに染込ませてパイプを拭きます。 頑固に固まった塗料も根気良く剥がしてパイプ生地を見られるまでにしてパイプの点検の結果、割れはなく、使用可能のようですのでゴミを取ってから塗装し直しです。 風に柳でパイプは捻れますので、可塑性のあるウレタン塗料を使用します。 2液式なので必要量のみを混合して薄く数回重ね塗りをすることで綺麗な仕上がりになります。


3.テスト

 綺麗に仕上がった部品を組立て垂直に立てて実際のテストするべきなのですが、 横着をして移動運用でテストすることにしました。 架設してワッチすると受信はできますので送信して相手局を呼ぶのですがなかなか応答がありません。 辛うじて数局と交信できましたが、これだけの大きなアンテナにしてはこの性能は腑に落ちません。 予備に持っていたアンテナに切り替えるとそのほうがよく聞こえよく飛びます。
 クラブのフィールドデーでのテストでも同じ結果なので、どうやらX500に問題があるようです。
戻って、このバンドのSWR計を借りてテストをしてみると両バンド共想定したSWR2.0以下ではなく無限大やその近くを示します。 テスト方法が悪いかと考えて別の計器で計っても同様な結果になり、明らかに異常な状態です。 しかし、分解可能な部分を見る限り問題はないので、見ることのできないアンテナ下部かアルミパイプ内のマッチング部に何らかの問題が発生しているとおもわれました。 こうなると下部グラスファイバーパイプとアルミパイプを分離しないとエレメントを見ることができません。 再び分解作業です。

フィールドデーの予行演習時 一番右端のGPが「X500」


4.アンテナ下部の分解

4-1 分解
 ラジアル3本を取り外したアンテナ下部のファイバーパイプは、その下のアルミパイプにしっかり固定されているので、内部のエレメントとアルミパイプ内部にあるだろうマッチング部を見ることができません。 この部分を外すには経験のある方ローカル局の方が居たので、外し方を伝授してもらって分解を試みることにしました。
 グラスファイバーは燃えないので、固めてある樹脂接着剤を加熱して緩めればアルミパイプから外すことが出来るそうで、コンロ用ボンベに火口をつけた簡易トーチでアルミパイプ部を加熱することにしました。 実作業時にはローカル局も来て取り外しを手伝ってくれましたので、この作業初心者には誠に心強い状態での作業です。 かなり長く加熱しましたが、なかなか緩まず樹脂の焼ける臭いがしてきたら、緩み始めたのでローカル局がパイプ端を持って引き抜きました。
 無事パイプは抜けましたが、アルミパイプ内にあった部分はガラス繊維を纏める樹脂が燃えてばらばらになりかけており、加熱過度のようにも見えます。また下部エレメントが一緒に外れたのは意外でした。 この状態でのエレメントには特段異常は見られず2段3段部と同様に見えます。
これでもアルミパイプ部のマッチング部は見ることができません。 この加熱によりアルミパイプの底部は別の金属であることが判明しましたが、パイプとの接合がどのようになっている判らず、仔細に概観を点検した結果接合用の工作部を認めることができなかったので、パイプ内部に螺子きりがあって底部を捩じ込み留め式と思うようになり、開けるべく捻りましたがビクともしないので加熱により緩めることにしました。 漸く底部が緩み、廻してマッチング部を取り出しましたが、樹脂片がポロポロと落ちてきます。 また、ラジアル装着用リングも緩んで外れたので基部はばらばらの状態になりました。

4-2 マッチング部
 真鍮製の底部は引き物でNJコネクタと一体になっています。 芯、センターピンジャックはこの底部の内側にある樹脂と一体となる絶縁支持体の一部がコネクタ内部の絶縁物になっています。
この支持体は加熱により焼けて変形、更には下段パイプ引き抜き時には破断してしまい、エレメントとの接続金具がエレメントについてとれてしまっています。 また、変形した支持体には4ターンのコイルが取り付けられて、下段リードは底部に半田付けされ上部リード端にコンデンサが接続してありその反対のリードは、やはり底部に半田付けされていたように見えます。 コンデンサは活きているようで1pF程度でした。 分解前にコネクタセンタージャックとアース側には導通がなかったのでどうしてかを見るとセンタージャックに繋がる点が支持体にありますが、何も繋がっていませんので理由は判明しましたがこれではエレメントに繋がらないのでまともなSWR値が出るはすはありません。 ならばコンデンサの下部がこの点に繋がっていれば、導通はなくとも高周波はC結合で供給されるので、外れているCは此処に付いていたものが外れたのかと推測しました。
 支持体の製作、オリジナルの支持体は過熱によりボロボロになり原型を留めていませんので、推測して製作しなければなりませんが。 助っ人のローカル局長が幸い関係する仕事をしていた方で製作してくれることになりましたので助かりました。 形状等は残っている部品から推定して直径と長さに上下に付く金具とコネクタ内部絶縁体を一体で製作しますが、ベテランが製作してくださったので、解決でき大助かりです。

4-3 再組立とテスト
 出来た支持体は底部部品に取り付けられてきましたので、想像していた結線をしてエレメントと接続、さらに第2、3段を取りつけラジアルをつけた上で地上2mに建柱した測定をしました。
アンテナの取り付け構造上の制約でアンテナ直結にアナライザをセットできません。 やむを得ず短いケーブルを介して接続して測定開始です。
 結果は、430MHz側より高いところに浅いディップらしきものがあるだけで、144側は∞のSWRになりました。 全くどういうことか判らず一旦テスト中止してよく考えることにしました。
 コイルリードは半田付けが外れていなかったので、センターピンジャックに繋がることはありませんから、変化できる要素はコンデンサの値のみです。 手持ちの小容量Cとローカルから分けてもらったものを並列に追加して、ディップが出ないか再度組立テストしましたが、一向に改善されません。


5.マッチング方法の考察

 残っていたコンデンサの値の変化が何も特性に変化を与えないことから、結線方法が間違っているのではないかと思えて、考え直すことにしました。

5-1 結線の変更
改めてマッチング部を仔細に見てゆくとコイルに半田痕がありました。 なぜと考えればこの点に何かが接続されていたことになるので何かと考えると、残っていたコンデンサのリードの長さから此処に接続されていたとは考えられません。 従って別の部品の存在があったはずですけれど、分解時には何もなく、樹脂の欠片しかありませんでした。 室内での分解ではなかったので、地面に落ちても気が付かなかったのかも知れないと分解していた場所も調べましたが部品らしきものはありません。 残っていたコンデンサの下端は底部部品に接続されていたようにみえていましたから、やはりそれはそのとおりなのかもしれません。 そう考えればコイル状の半田痕から部品が繋がるところはNJコネクタのセンターピンジャックになるかと思えます。 もしそうならば、導通がないのが正常ならば、この2点にコンデンサが付いていてもおかしくありませんが、確信はないので、メーカーに聞いてみることにしました。

5-2 情報
 メーカーに問い合わせると、コネクタのセンターとアース側とは絶縁しているとの由、それならば推測している別のコンデンサの存在理由が納得できますので、X500のマッチングデータを教えて欲しいと頼みましたが、なにぶん古すぎて資料がないとのことなので、現行品のX520のマッチングはどうなっているかと聞けば、2個のコンデンサを使用して1pF と6pF程度で値は微妙に変わるとのことでした。 ついでにコンデンサの耐圧を聞けば500Vです。
 推定は当たったようですが、数値がどうなるかは実際にカットアンドトライになることになりましたから、必要な部品の準備に掛かりますけれど、今時、500Vの小容量のセラミックコンデンサなんて手持ちもなく、また、持っているローカル局もありません。 コロナが急速に蔓延している東京秋葉原に探しに行くなんて怖いですし困った。
 
5-3 再結線
 何とか入手した少量のコンデンサで再度結線組立に挑戦しました。 残っていたコンデンサは手持ちの1pFに交換してコイルの両リード端に半田付けし、コイル途中の半田痕とコネクタセンターピンジャックとの間に5pFを取り付けて、アンテナを組立てて再テストです。
 測定してみると、430側にディップが見えました。 490MHz付近明らかなディップです。144側には何もありませんが、希望の灯が見えたようで、この5pFを変化させると、このディップ位置が変わることが判りましたが、部品が足らず部品の入手が重要な問題になりました。

5-4 部品
 知り合いの秋葉原の店主に、これ他の部品の有無を訊ねると、3kVなら若干あるとのことでもう殆ど何処にもないかもしれないとのことでした。 3kVでもあればと思いますが大きくなってパイプ内に収まるかが心配です。その後急用が発生して東京へ出ざるを得なくなり、それならと秋葉原の2店舗のみに限って寄ることして出向きましたら、希望とおりとはなりませんでしたが、そこそこの数量のコンデンサを入手できたのは幸運でした。 コロナ菌からも逃げられたので万歳です


6 再結線と組立

6-1 センターピン側のコンデンサ変化
 前回の続きで、5pFを0.5pFずつ増加してどう変化するかを測定します。限られた部品数なので0.5pFの変化は、コンデンサの直列、並列の組み合わせての何回ものテストです。その都度アンテナを建柱してのテストですから、1日でテストでいる回数は限られますが根性で続けるしかありません。 やがて11pFで421MHz辺りに深いディップが得られ、144側には160MHz辺りにディップが出ました。 少し先が見えました。 更に値を増加すると、ある点から全くディップが見えなくなります。 こうなると一番深いディップの出た値に一旦固定して、144側に影響するだろう1pFの変化してみること以外に残された方法はありません。

6-2 エレメントとコネクタアース側接続のコンデンサの変化
 1pF程度と聞いていたコンデンサですから大きく変化はしないと予想して、0.5pFずつの変化にセンターピン側のコンデンサをその都度変化させてディップを探します。 同様な作業を根気良く続ける以外に方法はありません。 アース側コンデンサを2.5pF、センターピン側を13pFにした時に430側は429MHz、144側には139MHzにそれなりのディップが現れて、あと一息までになったのです。 さらにコンデンサを交換し組合せを変化させていたら、やりましたよ。
 アース側3pF、センターピン側12pFにしたら、144側は145MHzでSWR2.0、430側は429MHzにSWR1.27のディップで433MHzでは、SWR3.2になったのです。 これ以上のコンデンサの変化では良点は見つかりませんので、コンデンサの値変更はやめ、コイルの幅の調整ではどうかと、変化させてみましたら、145MHzはSWR1.7に、433MHzは2.9となったのです。
 どうやら、実用域に調整することができました。 今のところこれ以上の改善策は考えられませんので今回の作業は終了です。


7 反省と総括

 分解時の不手際による部品の損傷について
 全く構造がわからないため加熱によってファイバーパイプを外したことで、内部のマッチング部絶縁支持体を破壊してしまいましたが、これは不要な作業で再生を困難にしてしまいました。 幸いこの方面の専門家がローカルに居られましたので修理可能になりましたが、素人がこの部分を再製作するのは困難です。 分解時にはトーチを使う場合、底部部品がかみ合っている螺子部辺りのアルミパイプを軽く加熱することで底部を外せますでしょう。 引き出すとエレメントを繋ぐ金具はイモネジでとめてあるので緩めればエレメントとマッチング部を分離できます。
 マッチング部絶縁支持体はそのままの状態で観察できますので、2個のコンデンサがどのような値で接続点の半田付がどうなっているかを点検できますので、部品が壊れていなければ接続点とリードの状態の点検修理で再生できるはずです。 過大入力でコンデンサが壊れている場合は、同容量のコンデンサを幾つかつけて最良なものを選びます。 コンデンサ容量のばらつきとアンテナ個別の特性で値が変化することがありますので、この辺りは実際にテストして下さい。
 また、必要なコンデンサはなかなか無いかと思いますが、OMの引き出しにあることもありますから先輩とは仲良くしてください。 見た限りマッチングはコンデンサの交換以外には部品交換の必要はなく、これで不具合ならば各エレメント間の接続や、雨などの水の浸入で接続不良がおきているとしか考えられませんので、よく点検することをお勧めします。


最後の作業

 コンデンサの値は幾つかのものの合成ですので、部品数を減らすために最適なコンデンサに交換し直すこと、痛んだ外装を再度点検して再塗装することとその上に透明な保護剤を塗ることで長期の使用に耐える準備をすることが残りました。 勿論、ばらばらになりかけている下段のパイプ部分はエポキシ樹脂で固め、強度を上げて風への対応力を強化しておきます。これで次のフィールドデーには有力なアンテナとして活躍するでしょう。また、外装の接続部はテーピングするなどして防水準備をしておくことも必要かと思います。 古くなったアンテナも手入れをしてやれば再生できることがわかりました。 こんな面倒な作業は願い下げかも知れませんが、今回得た様々な知識は、本からは学べません。 どうぞ、トライアンドエラーで構いませんから経験を積まれるとハムライフが更に楽しくなりますよ。 終わり

 なお、記事内のコンデンサの値は、独自に再生した絶縁支持体の使用によって本来の数値とは異なっているものと考えられますので、同様な作業をする方は実験で値を決めてください。


追記

アンテナの調整作業を終えた日、インターネットで偶然同じような修理をした方の記事を見つけました。 何葉かの写真が掲載されていましたので、そのうちの写真をお見せします。参考にどうぞ。

from VK4GHZ.com
Screenshot から


VK4GHZ/ADAM氏が2018年1月に自身のHPに掲出した修理記事がありましたので、参考にされてください。
Fixing a Diamond X-500 2/70 antenna – VK4GHZ.com
 
同氏もコネクタ底部を外すのに困難であったらしくアルミパイプ側の螺子部分を切り取って外されています。この修理記事の既出は、2010年の11月18日になっていますので、調整されているX500は今から30年以上昔の製品であることがわかりました。 修理結果は144側SWR1.05、430側SWR1.1になっていますので、私の挑戦も再度やり直しの必要があるかもしれません。 英文全訳は大変ですが、ゆっくり読んでみます。 第2回の記事には完成させたいですね。


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